6.1 論点の枠組み
給付額の比較より前に、最低生活保障、所得補完、制度簡素化のどれを目的とするかを固定する。
給付水準には、研究から自動的に導ける唯一の答えがない。最低生活を単独で保障する額と、変動所得を下支えする額、複雑な制度への入口を簡素化する共通給付では、必要な額も残す制度も違う。最初に目的関数を固定せず「月額いくらがよいか」だけを尋ねると、十分性、財政負担、就労インセンティブの議論が互いに別の制度を想定したまま進んでしまう。
6.2 前提別の整理
ケニア、フィンランド、ドイツ、バルセロナの金額は、それぞれ現地所得、既存制度、対象者、支給期間の中で意味を持つ。為替換算した名目月額だけでは保障の厚さを比較できない。また、同じ給付額でも所得に応じて減額する制度は、減額率と税・保険料を合わせた限界負担率によって就労時の手取りが変わる。
普遍給付は給付段階で所得を調べないが、高所得者から税で回収すれば最終的な純受益は一様ではない。逆に、対象給付は同じ予算を低所得者へ厚く配れるが、申請漏れや所得変動に伴う給付の崖を生み得る。給付水準は、この普遍性、十分性、負担、捕捉率の組み合わせとして評価する必要がある。
日本で必要なのは、単一の推奨月額ではなく、目的の異なる複数仕様を同じ基準で比較することである。少なくとも単身、夫婦、子どものいる世帯、ひとり親、高齢者、障害・介護ニーズのある世帯について、給付、税、保険料、既存給付、現物サービスを含む手取りと最低保障を示す必要がある。
現行制度の基準点として、2025年度当初予算の基礎年金給付費は28,374,984百万円、同年度予算案の児童手当は21,666億円と公表されている。ただし前者は年金特別会計の基礎年金勘定、後者は児童手当の予算案であり、制度範囲も会計段階も異なる。これらを足して「置換可能額」とみなすことはできない。
- 政策目的ごとの水準比較と、世帯類型別の手取り・限界負担率
- 既存給付を残す場合と置き換える場合の最低所得保障
- 本レポートは独自の給付額を提示しない
6.3 小括
給付水準は効果研究から一意に決まらない。政策目的、対象、減額率、既存制度との関係を固定して比較する必要がある。
この整理は対象資料と公的統計の範囲に基づく。制度条件が異なる研究を日本へ直接外挿せず、各リンク先の研究方法と限界を合わせて確認する必要がある。
