UBI研究機構 資料データベース / 労働供給 PAPER 47
労働供給 / スペイン・バルセロナ市の低所得10地区 / 多群RCT・行政記録連結 / 2025

最低所得保障は就業を減らすか — バルセロナB-MINCOME実験

原題:The Employment Effects of a Means-Tested Guaranteed Income Policy

種別
論文・研究資料
発表年
2025
地域
スペイン・バルセロナ市の低所得10地区
手法
多群RCT・行政記録連結
出典
Journal of Public Economics, 248, 105420(2025年)
この論文の要点
01

主受給者の就業確率が22%低下した

02

給付減額率が低いほど就業減は小さかった

03

教育・社会参加への明確な効果はなかった

研究の背景

低所得世帯への最低所得保障は貧困を緩和する一方、稼得に応じて給付を減らすため就業の見返りを小さくする。所得効果と給付の逓減による代替効果を分け、減額率や就労支援の設計が反応を変えるかを同一実験で調べた証拠は少ない。本研究は、バルセロナ市のB-MINCOMEを用いて、給付全体の効果、100%減額と25〜35%減額の差、社会的活動支援の有無を比較した。

これは全員に払うUBIではなく、所得・資産審査のある世帯単位の最低所得保障である。行動条件は付かなかったが、働いて所得が増えると給付が減る。

方法と対象

市の社会サービス記録から4,305世帯を招待し、2,339世帯が申請、1,518世帯が適格だった。公開抽選で822世帯を処置、378世帯を無給付対照、318世帯を本分析外のプログラム等へ割り付けた。分析対象は処置と対照の計1,200世帯である。処置群はさらに給付減額率と社会的活動支援を組み合わせた群へ無作為化された。

群・要素人数・内容
処置群822世帯。最低所得給付と、割付により活動支援
対照群378世帯。給付・活動支援なし、調査のみ
給付減額追加所得1ユーロにつき1ユーロ減額、または25〜35セント減額
活動支援地域活動または社会的起業支援。参加の強制・監視は弱かった

給付は2017年12月から2019年10月まで23か月。世帯構成と所得に応じ、4人世帯の上限は月1,297ユーロ、単身は663ユーロで、地域貧困線の約70〜80%だった。実際の平均は月422ユーロ、受給した世帯に限ると492ユーロで、14%は最終的に支払いを受けなかった。処置割付の87%が参加したため、分析は割付に基づくITTである。

ベースライン調査は割付前、エンドラインは終了3か月前に実施した。エンドライン回答率は全体75%で、処置群は対照群より15.2ポイント高かった。行政の社会保険記録は97%と照合でき、2019年6月から終了6か月後の2020年4月まで就業を追跡した。ただし自営、労働時間、所得は行政記録にない。論文は、実験開始後に外部研究者が評価へ参加したため、事前分析計画も事前登録もないと明記する。

結果

主受給者と世帯の就業が減った

終了前のアウトカム対照群平均ITT効果標準誤差p値
主受給者が就業(調査)47.3%−10.2ポイント3.4ポイント0.003
主受給者が雇用(行政)47.6%−11.0ポイント3.8ポイント0.004
世帯内就業者数0.869人−0.155人0.0520.003
少なくとも1人就業63.7%−8.8ポイント3.3ポイント0.007

主受給者の−10.2ポイントは対照群平均の約22%に当たる。多重検定補正後も主要な就業効果は有意だった。雇用形態の分解では雇用−10.8ポイント(p=0.002)、フルタイム−6.8ポイント(p=0.019)、常用雇用−5.5ポイント(p=0.024)だった。自営+0.6ポイント(p=0.486)、パートタイム−3.7ポイント(p=0.220)、臨時雇用−5.2ポイント(p=0.100)は有意でなかった。

給付の減額率が就業反応を左右した

行政記録では、部分減額の割付は完全減額より就業効果が平均8.4ポイント高く、p=0.023だった。推計就業率は対照45.8%、部分減額38.0%、完全減額30.3%である。著者らの参加弾力性は、パートタイム就業を考慮した4人世帯で部分減額0.49、完全減額0.39だった。所得弾力性は−0.07、代替弾力性は0.15で、月100ユーロの処置所得増が就業確率約1ポイント減と対応する。

簡易財政計算では、就業しないことで失う給付減額分、すなわち給付1ユーロ当たり政府追加費用は部分減額12セント、完全減額34セントだった。低い減額率は就業減を緩和し、政府費用も約3分の1にした。ただし税収、他給付、一般均衡を含む完全な費用便益分析ではない。

活動支援、教育、社会参加の結果は概ねnullだった

活動支援の有無による主受給者就業の差は−3.8ポイント、p=0.252で有意でなかった。支援への参加が任意で監視されず、割付の約3分の2しか実際に参加しなかった点に注意が要る。

求職は−1.5ポイント(p=0.167)、社会参加+1.1ポイント(p=0.761)、過去6か月の教育・訓練+3.4ポイント(p=0.279)で、いずれも明確な効果はなかった。行政記録の負の就業効果は給付終了後6か月まで残ったが、観察窓の末には縮小した。末期はCOVID-19のロックダウン開始と重なる。

女性や子どものいる世帯で負の反応が大きいという部分集団結果は、データ源や月によって頑健性が異なる。詳細な時間利用を測っていないため、著者らも「有給労働をケアへ置き換えた」という解釈を暫定的としている。

日本に当てはめるときの注意

最大の障害は、UBIではなく、非常に貧しい子ども世帯を中心とする所得審査・給付逓減付き制度であることである。

  • 対象地区の平均月収は約400ユーロ、主受給者の73%が女性、世帯人数は約4人で、日本全国への外挿はできない
  • 就業減は現金給付そのものの所得効果だけでなく、25〜100%の給付減額が生む代替効果を含む
  • 事前登録・事前分析計画がなく、実験開始後に外部研究者が加わった。多数の仕様と部分集団分析は慎重に読む必要がある
  • エンドライン回答が処置群で15.2ポイント高い。行政記録と感度分析は主結果を支えるが、調査アウトカムの選択的脱落を完全には除けない
  • 自営、労働時間、稼得、家事・ケア時間を十分に観察せず、就業減の厚生的意味は判断できない
  • 23か月の期限付き実験で、恒久制度や全国展開時の需要・賃金・物価効果を含まない
  • 著者らは既知の競合する金銭的利害・個人的関係なしと申告した。EU Urban Innovative Actions、スペイン・カタルーニャの研究費、オランダ研究評議会が資金提供し、Todeschiniは設計・実施時に評価機関Ivàluaで勤務していた