UBI研究機構 資料データベース / 労働供給 PAPER 31
労働供給 / 米国・カナダを中心とする先進国、補足的に途上国 / 文献レビュー / 2018

条件なしの現金給付は行動をどう変えるか — 米国を中心とする証拠レビュー

原題:No Strings Attached: The Behavioral Effects of U.S. Unconditional Cash Transfer Programs

種別
論文・研究資料
発表年
2018
地域
米国・カナダを中心とする先進国、補足的に途上国
手法
文献レビュー
出典
NBER Working Paper 24337(2018年2月)
この論文の要点
01

就業確率への影響は多くの研究でnullだった

02

労働減少が出ても所得増に比べて小さかった

03

若年層の教育・健康には改善例があった

研究の背景

UBIへの反対論では、条件のない給付が就労を大きく減らし、浪費を増やすという懸念が繰り返される。しかし当時、先進国で全国的・恒久的なUBIを直接評価した研究はなかった。本稿はUBIの要素を部分的に持つ制度を集め、消費、就業、教育、健康、犯罪、家族形成への影響を整理したレビューである。

方法と対象

中心となるのは、米国の負の所得税実験、アラスカ恒久基金配当、東部チェロキー族のカジノ配当、米国の宝くじ当選者である。補足的にカナダのMINCOMEと途上国の現金給付レビューも扱う。

証拠主な性質UBIとの違い
米国の負の所得税実験約1,200〜4,800世帯、所得に応じ給付を減額所得審査と高い給付逓減率がある
アラスカ配当州民へ毎年一律給付普遍的・継続的だが生活費を代替する額ではない
チェロキー配当成人部族員へ年約4,000ドル対象は部族員、財源はカジノ利益
宝くじ長期分割払いの当選者自選的な購入者への偶発所得

各研究は対象、給付額、期間、比較方法が異なり、統一的なメタ分析ではない。NBER版は査読前のレビューである。

結果

労働供給の減少は限定的だった

米国の負の所得税実験では、夫の年間労働減少はおおむね約2週間、若者では約4週間に相当した。研究間の違いをまとめると、給付による所得が10%増えると労働供給は約1%減るという規模だった。Seattle–Denver実験では就業率が約4ポイント、長期追跡で雇用が4.6%、年間所得が7.4%低い推定もある。

一方、アラスカでは人口当たり雇用への有意な影響はなく、パートタイム就業が1.8ポイント増えた。チェロキー配当でも親の労働供給に明確な変化はなかった。レビュー全体では「働かなくなる」という大幅な反応は支持されないが、効果が完全にゼロとも断定していない。

教育・健康・社会的成果には改善例があった

負の所得税実験の一部で在学継続や高校卒業が改善した。チェロキー研究では、特に当初貧しかった世帯で教育年数が約1年増え、精神症状、薬物・アルコール問題、犯罪が減った。カナダMINCOMEでは入院が8.5%減ったとする研究を紹介する。ただし、これらは異なる介入と推定法による結果であり、一つの平均効果ではない。

現金が浪費されたという証拠は乏しかった

アラスカ配当の支給月には非耐久財・サービス消費が増えた。チェロキーでは薬物・アルコール問題がむしろ減った。途上国研究を含めても、嗜好品への大幅な支出増を中心結果とする証拠は乏しい。

日本に当てはめるときの注意

最大の障害は、レビューに全国・恒久・生活保障水準のUBIそのものを評価した研究が一つもないことである。財源課税まで含む制度効果は直接分からない。

  • 負の所得税は給付逓減による代替効果を含み、一律給付とは就労誘因が違う
  • アラスカなどは額が小さく、日本の最低生活費を置き換えるUBIへの外挿はできない
  • 労働、健康、教育の数字は研究設計の異なる事例を並べたもので、統合推定値ではない
  • 研究対象には宝くじ購入者や特定部族など、一般人口と異なる集団が含まれる
  • Roosevelt Instituteが資金提供した。著者は推進団体から研究費を受けたレビューである点と、NBER版が未査読である点を考慮する必要がある