研究の背景
AIの経済影響論が活発化するなか、特化型AIと汎用AIを区別せずに議論されている状況を整理する必要があった。特化型AIは一つの課題しかこなせないが、汎用AIは人間のようにあらゆる課題をこなし得る。全脳アーキテクチャ・イニシアティブが2030年には研究開発のめどが立つとの展望を示しており、本稿はその出現時期を仮に2030年と置いて議論を進める。汎用AIが本当に実現するかどうかの議論は割愛されている。
方法と対象
実証研究ではなく理論的考察。生産構造(インプットとアウトプットの基本的関係)を三類型に整理する。
| 類型 | インプット | アウトプット | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 農業中心の経済 | 土地+労働 | 農作物 | 土地は生産できない → マルサスの罠 |
| 機械化経済 | 機械(資本)+労働 | 工業製品・サービス | 機械はアウトプット → 自己増殖のループ |
| 純粋機械化経済 | AIを含む機械のみ | 産出物 | 労働が不要に |
そのうえでソローモデルを用いて各段階の成長率を比較する。「純粋機械化経済」はピケティの「純粋ロボット経済」(Pure Robot-economy)に倣った呼称。
結果
経済成長
- 機械化経済では、定常状態の成長率は資本の増大によっては上昇しない(ソローモデル)。日本や米国が1〜2%の低成長にとどまるのはこの定常状態にあるためと解釈できる
- 純粋機械化経済では、技術進歩率が一定でも年々経済成長率そのものが上昇する
- したがって汎用AIを早く導入した国と遅れた国のあいだに成長率の開きが生じる。これが「第二の大分岐」。第一次産業革命期に蒸気機関を導入した欧米諸国とそれ以外が分かれた「大分岐」(Pomeranz)の再来
雇用
- 第四次産業革命後の経済ではAI搭載機械が自らを操作するため、消費需要の増大が労働需要を増大させない
- 賃金は下方硬直的で、下落しても最低賃金の壁に突き当たる。機械の価格が下落し続ければ、いずれ雇用は消滅する
- 米国では既に中間所得層の事務労働がコンピュータ化され、労働市場の二極化(Autor)が進行
所得分配
- AI・ロボットを所有する資本家の所得は増え、労働需要の減少とともに労働者の所得は減る
- 資本分配率が上昇し労働分配率が下降。ピケティ『21世紀の資本』の実証結果と整合的
- 極端には資本分配率100%、労働分配率0%に近づき、労働者の窮乏化は避けられない
政策提案
税財源による生活保障の「固定BI」(例:月7万円)と、中央銀行が家計へ直接給付し失業率や物価に応じて変動させる「変動BI」からなる二階建てBIを提案。変動BIが失業を減らす効果を持つのは人間に成すべき労働が残っている間だけで、第四次産業革命以降は固定BIの役割が重要になる。
日本に当てはめるときの注意
月7万円という金額は2017年時点の物価水準を前提にした例示で、現在の水準にはそのまま使えない。
そのほか:
- 変動BIの構想は、平成不況期に「増大したマネーが市中銀行に滞留して家計まで届かなかった」という日本固有の経験を根拠にしている。その後の金融環境の変化を踏まえる必要がある
- 生活保護・年金・各種控除との統合をどうするかは本稿では扱われていない
- 汎用AIの出現時期(2030年)は仮置きであり、著者自身が実現可能性の議論を割愛していると明記している
