UBI研究機構 資料データベース / 子育て・子ども PAPER 17
子育て・子ども / 米国(ノースカロライナ州西部) / 準実験 / 2010

親の所得と子どもの成果 — カジノ配当を利用した準実験

原題:Parents’ Incomes and Children’s Outcomes: A Quasi-Experiment

種別
論文・研究資料
発表年
2010
地域
米国(ノースカロライナ州西部)
手法
準実験
出典
American Economic Journal: Applied Economics, 2(1), pp.86–115(2010年)
この論文の要点
01

貧困世帯の教育年数が約0.9年伸びた

02

16〜17歳の逮捕確率が22.6ポイント低下した

03

親の就労時間より養育の質が改善した

研究の背景

親の所得が高い家庭ほど子どもの教育や成人後の成果が良いことは知られている。しかし、親の能力、教育、健康、価値観などが所得と子どもの成果の双方に影響するため、単純な相関から「所得そのもの」の効果を分離することは難しい。先行研究は操作変数や家族内比較を用いてきたが、結論は一致していなかった。

本研究は、ノースカロライナ州の東部バンド・チェロキー族が運営するカジノの利益配当を利用する。配当は成人部族員へ所得や就労に関係なく同額で支給され、もともと進行中だった子どもの縦断調査の途中で始まった。これにより、親の特性と直接結び付かない恒常的な所得増を観察できる。

方法と対象

Great Smoky Mountains Study of Youthは、ノースカロライナ州西部11郡の約2万人から、開始時点で9歳、11歳、13歳だった子ども1,420人を抽出した縦断調査である。先住民の子どもを意図的に多く抽出しており、初期標本は先住民350人、非先住民1,070人だった。調査は1993年に始まり、16歳まで毎年、その後19歳と21歳で追跡した。21歳時点の主要分析はおおむね1,044〜1,092人で行われた。

カジノ開業後、成人部族員には半年ごとに配当が支給され、当時の年額は一人平均約6,000ドルだった。連邦所得税の対象だが、雇用、所得、家族構成による受給条件はない。

比較要素内容
所得増のある世帯同居する東部チェロキー族の親が1人または2人いる世帯
地域内対照部族員の親がいない世帯
年齢コホート開始時9歳、11歳、13歳
曝露差最年少は未成年期に6年、最年長は2年受給世帯で生活
推定年齢コホート×部族員親数の差の差

主なアウトカムは21歳時点の教育年数、19歳時点の高校修了、16〜21歳の行政逮捕記録、本人申告の薬物販売である。学校出席、親の就労、逮捕、薬物・アルコール問題、監督、親子活動はパネル固定効果などで分析した。世帯が実験前に貧困だったか、子どもの性別による違いも調べた。

公開PDFは2008年のIZAディスカッションペーパー版であり、メタデータは2010年の査読出版版に合わせている。数値は公開PDFで確認した版に基づく。

結果

教育効果は実験前に貧困だった世帯へ集中した

全標本では、最年少コホートの高校卒業確率が14.9ポイント上昇(標準誤差7.2ポイント、論文表で統計的に有意)した。高校卒業またはGED取得は8.0ポイント上昇したが、10%水準の有意性だった。21歳時点の教育年数は+0.332年で有意ではない。

実験前に貧困経験のある世帯へ限定すると、最年少コホートの教育年数は0.903年増(標準誤差0.462)、高校卒業確率は33.6ポイント増(標準誤差13.3ポイント)、高校卒業またはGEDは23.9ポイント増(標準誤差11.5ポイント)だった。貧困経験のない世帯では、これらの処置係数はいずれも有意ではなかった。

学校出席の固定効果推定では、配当対象世帯の子どもは直近3か月の登校日数が2.442日増(標準誤差1.124)した。実験前に貧困だった世帯では3.85日増、貧困でなかった世帯では2.485日増で、後者は10%水準だった。

犯罪への効果は年齢と犯罪類型で異なった

最年少コホートでは、16〜17歳に何らかの犯罪で逮捕される確率が22.6ポイント低下(標準誤差7.6ポイント)した。18〜19歳と20〜21歳では有意な効果がなかった。著者は、親の監督下にある未成年期に効果が集中した可能性を挙げる。

16〜21歳に軽犯罪を一度でも犯す確率は16.7ポイント低下したが、有意性は10%水準だった。中程度・暴力犯罪には全標本で有意な効果がない。薬物を売ったことがあるという本人申告は7.2ポイント低下(標準誤差3.3ポイント)した。

結果は一様ではない。16〜17歳の逮捕減少は男子と実験前貧困世帯で大きい一方、21歳までの軽犯罪は貧困経験のない世帯でより明確だった。複数の部分集団・アウトカムを調べており、各推定値を独立した確証とみなすべきではない。

親が働く時間を減らした証拠はなかった

追加所得によって親が就労を減らし、子どもと過ごす時間を増やしたという仮説は支持されなかった。母親の労働力参加に有意な変化はなく、就労への結び付きはむしろ強まる方向だった。父親にも労働力参加の低下はなかった。

一方、配当対象世帯では母親・父親の子どもへの監督不足を示す尺度がそれぞれ0.105、0.154低下し、親全体の指標も改善した。母親との活動が緊張や無関心を伴う尺度も0.089改善したが、10%水準で、父親との活動は有意ではなかった。著者は所得によるストレス減少が養育の質を高めた可能性を示す。ただし消費支出データがないため、教育投入など他の経路は検証できない。

識別上の限界

配当は無作為に割り当てられていない。部族員世帯と非部族員世帯の違い、カジノ開業に伴う地域の雇用・公共投資が推定を乱す可能性がある。年齢コホートと非先住民世帯を組み合わせ、事前トレンドや偽処置の検定を行っているが、観察できない差を完全には除けない。部族員親数を処置強度として扱うため、別居親からの移転や実際の配当受領も正確には測っていない。

日本に当てはめるときの注意

最大の障害は、部族カジノ収益という外部財源と、特定コミュニティの恒久配当を利用した自然実験であることだ。日本の税財源による全国給付では、給付効果に加えて負担側の行動変化も生じる。

  • 子どもへの効果はとくに実験前貧困世帯で大きく、全所得層へ同じ効果があるとは言えない
  • 配当は成人一人当たり年約6,000ドルで、親が2人とも部族員なら世帯所得増は倍になる
  • カジノ開業による雇用、地域サービス、文化的変化を完全には分離できない
  • 犯罪結果は逮捕記録であり、犯罪行動と警察活動の双方を反映する
  • 多数の部分集団分析があるため、境界的な有意差は慎重に読む必要がある
  • 日本で近い政策論点は、子ども本人への一律給付より、低所得世帯の所得安定が教育継続と親子関係へ及ぼす長期効果である
  • 公開版に著者の金銭的利益相反の記載は見当たらない