UBI研究機構 資料データベース / AI・経済 PAPER 58
AI・経済 / 米国(数値較正) / 最適課税理論・一般均衡モデル・数値較正 / 2023

ロボットには課税すべきか — 所得税・資本税との最適な組み合わせ

原題:Optimal Taxation of Robots

種別
論文・研究資料
発表年
2023
地域
米国(数値較正)
手法
最適課税理論・一般均衡モデル・数値較正
出典
Journal of the European Economic Association, 21(3), pp.1154–1190(2023年)
この論文の要点
01

最適ロボット税は小さく税から補助にもなる

02

所得税改革の厚生効果が桁違いに大きい

03

ロボットだけを区別する便益はほぼない

研究の背景

自動化が定型職の賃金を下げ格差を広げるなら、ロボットへの課税で導入を抑え、その税収を再分配すべきだという提案がある。しかしロボット税は生産性を下げ、手作業職と認知職の賃金差には逆方向の影響を与え得る。また、同じ再分配を累進所得税で直接行えるなら、ロボットを特別扱いする必要は小さいかもしれない。本研究は、ロボット、その他設備、建物資本、非線形所得税、非就業者への移転を同時に選ぶ最適課税問題として比較した。

公開PDFは2018年のCESifo Working Paper版である。査読後の2023年版はロボット以外の設備・建物資本、非就業者への移転、現行税制からの改革比較を追加し、数値結果も大きく変わった。本要約は出版社の最終版全文と照合し、結果は2023年版を記載する。旧版の「最適ロボット税0.86〜1.8%」という基準値は最終版の結果として用いない。

方法と対象

まず、労働者を手作業・非定型、定型、認知・非定型の3職種に分けた理論モデルを構築した。ロボットは定型労働の代替になり、手作業・認知労働とは補完的になる。ロボット税は職種別賃金を変えて格差を圧縮し、所得税による労働供給の歪みを小さくできる一方、低賃金側の格差を広げる場合もある。このため、最適税率の符号は理論だけでは決まらない。

数値モデルには次を組み込んだ。

  • 3職種内の連続的な賃金格差と、就業するか否かの選択
  • ロボット、その他設備、建物の3種類の資本
  • 完全な非線形労働所得税と非就業者への移転
  • 米国CPSの賃金・雇用分布
  • Acemoglu・Restrepoによる1990〜2007年の産業用ロボット曝露と賃金・雇用への推定効果
  • ロボット価格低下と導入量の関係、労働供給弾力性0.3

1990年の職業・賃金構成を主な較正基準にし、ロボット価格が下がる複数の反実仮想で、全税制を最適化した場合と、現行制度から一部だけを改革する場合を比べた。これは静学的な中期モデルで、労働者の職種変更は基準分析に含めない。

結果

ロボットは最初は補助、普及途中では小幅課税が最適だった

現在に近い高いロボット価格では、最適政策は約0.5%のロボット補助だった。ロボット価格が下がり定型職の賃金が圧迫されると補助は課税に転じ、価格が約50%下がった付近で税率は最大約1%となった。その後は、課税による効率損失が格差縮小の利益を上回り、税率が再び下がった。

その他設備への最適税率は常に正で、最大約2%だった。建物資本への最適税率はゼロだった。したがって「自動化が進むほどロボット税を際限なく上げる」という結果ではない。

非就業者への最適移転は、ロボット価格が高いとき平均労働所得の約32%で、価格低下によって経済が豊かになるにつれて40%超へ上昇した。これは全員へのUBIではなく、モデル上の非就業者向け移転である。

厚生改善の中心は所得税改革だった

現行資本税を維持したまま非線形所得税と移転を最適化すると、厚生改善は1人年1,000〜4,000ドルとなった。これに設備と建物の資本税を最適化する改革を加えても、追加便益は1人年2〜20ドルだった。

さらにロボットをその他設備と異なる税率にする追加便益は、1人年0.60ドル未満だった。分類・申告・監督費用を入れる前から小さく、所得税を柔軟に改革できるなら、ロボットだけを特別に課税する根拠は弱い。

所得税を変えられない場合はロボット税に役割があった

所得税と他の資本税を現行のまま固定し、ロボット税だけを調整すると、価格が50%以上下がった場面では税率が10%を超えた。厚生改善は最大でGDPの約0.5%、1人年約300ドルとなった。

この高い税率はロボット税そのものが効率的だからではなく、本来は所得税で行う再分配を代行するためである。所得税を同時に最適化できる場合のロボット税は最大約1%にとどまり、差別的なロボット課税の追加便益もほぼ消えた。

結果は中期の職業固定を前提とする

基準モデルは、ロボット曝露後の15年程度には大規模な職業移動の証拠が乏しいとして職種変更を除外した。著者は、長期に若い世代が影響の小さい職種を選べばロボット税の必要性はさらに小さくなると述べる。2018年ワーキングペーパー版では職業移動を含む別モデルを分析していたが、最終版とは税体系と基準結果が異なる。

日本に当てはめるときの注意

最大の障害は、1990年代の米国産業用ロボットの影響で較正した静学モデルであり、生成AI、現在の日本の雇用制度、実際の税収を分析していないことである。

  • 「ロボット」は定型労働を代替する生産資本で、ソフトウェア型AIや企業横断のクラウドサービスとは課税対象の識別可能性が異なる
  • 数値は米国CPSと産業用ロボットの地域曝露推定に依存し、日本の賃金分布、法人課税、社会保険料へ移植できない
  • 職種移動を除く中期モデルであり、教育、再訓練、企業内異動、技術が生む新職種を内生化しない
  • 最適税率は政府の格差回避度、労働供給弾力性、生産関数、ロボット価格弾力性の較正に依存する
  • 非就業者への移転はUBIではなく、就業者全員に同額を払う制度の財政効果を示さない
  • ロボットとその他設備の区別、租税回避、国際的な企業立地、執行費用を十分に扱わない。これらを入れれば差別課税の純便益はさらに小さくなり得る
  • 公開PDFは2018年版で、査読最終版ではモデルと政策比較が拡張され、基準税率の結論も変わった。最終版は出版社サイトでCC BY 4.0の全文を確認した
  • 研究はERC Grant No. 757721とC. Willems Stichtingの支援を受けた。査読過程では共同編集者と4人の匿名査読者への謝辞があり、独立した利益相反申告はない