UBI研究機構 資料データベース / 労働供給 PAPER 48
労働供給 / オランダ・ユトレヒト市 / 事前登録RCT・行政記録による終了1年後追跡 / 2026

就労義務を外すと就業は減るのか — オランダ社会扶助RCT

原題:Conditionality vs. Autonomy: What Works Best in Social Assistance?

種別
論文・研究資料
発表年
2026
地域
オランダ・ユトレヒト市
手法
事前登録RCT・行政記録による終了1年後追跡
出典
Labour Economics, 102, 102939(2026年)
この論文の要点
01

就労義務免除で就業と自立が増えた

02

個別相談の効果は小さく有意でなかった

03

求職・健康・幸福度には明確な効果がなかった

研究の背景

社会扶助では、求職、報告、面談を給付条件とし、不履行に制裁を科す制度が一般的である。標準理論では義務を外すと求職努力が減る一方、自律性が内発的動機を高めたり、急いで不適切な仕事に就くことを避けたりする可能性もある。既存研究は失業保険の監視や制裁を多く扱うが、長期受給者への「義務免除と自律性」を直接無作為化した証拠は乏しかった。

本処置はUBIではない。給付は所得・資産と世帯所得の審査を残し、変えたのは主に就労関連の行動条件である。

方法と対象

ユトレヒト市で対象となり得た社会扶助受給者8,338人のうち、任意で752人、約9%が応募した。個人を世帯類型と就労可能性区分で層別し、本論文の3群と別論文用の第3処置へ割り付けた。本分析は565人で、1人の死亡後の推定標本は564人である。

群割付人数内容
義務免除189求職報告、監視、制裁、必須面談を免除。支援利用は本人の選択
個別相談188義務は維持し、本人の希望に沿う集中的相談。担当数40〜50人
対照188通常制度。求職義務、監視、担当者面談、違反時の給付削減

処置は2018年6月から2019年12月まで19か月、行政記録は終了12か月後の2021年12月まで追跡した。対象の平均年齢47歳、女性50%、単身給付世帯63%、受給期間平均75か月で、就労市場から遠い人が多い。行政記録は全員について雇用、労働時間、稼得、契約種別を観察し、脱落がない。自営は年次報告の遅れから除外した。

本人はいつでも実験から撤回でき、19か月時点の累積撤回は対照9%、免除11%、相談14%だった。調査回答率は終了時約70〜80%で、相談群の脱落がやや多かった。事前登録は処置開始後だが、データ収集・分析前に行われ、論文は事前分析計画との差を付録で列挙する。

結果

義務免除の効果は時間とともに大きくなった

行政アウトカム時点対照群平均免除効果標準p値多重補正p値
雇用19か月17.6%+6.4ポイント0.0920.395
自立19か月8.0%+6.4ポイント0.0450.252
雇用終了1年後17.0%+10.0ポイント0.0110.057
自立終了1年後8.0%+9.8ポイント0.0040.024
常用雇用終了1年後5.9%+5.2ポイント0.0700.451

「自立」は労働所得が法定基準を超えることを指す。標準p値では雇用と自立が増え、終了後も拡大した。だがWestfall–Young多重検定補正後、終了1年後に5%水準で残ったのは自立で、雇用はp=0.057だった。常用雇用や臨時雇用の増加は補正後に有意でなく、「仕事の質が改善した」とは確定できない。

通常制度への復帰後も効果が残ったが、社会扶助の受給継続自体にはいずれの処置も有意な効果がなかった。就業しながら給付を受ける人がいるため、就業増が直ちに給付退出を意味しない。

集中的な個別相談には頑健な効果がなかった

個別相談の19か月時点の雇用効果は+4.0ポイント(p=0.277)、自立+3.5ポイント(p=0.240)だった。終了1年後は雇用+2.2ポイント(p=0.568)、自立+5.1ポイント(p=0.099)で、いずれも多重補正後に有意でない。相談群では担当者との接触増が半年ほどで対照群へ近づき、支援が臨時的な試行就労を重視した可能性を著者らは挙げるが、機序は特定していない。

自律性以外の調査アウトカムはnullだった

免除群の自律性得点は中間時+0.253(標準p=0.042)、終了時+0.308(p=0.011)だったが、多重補正後はそれぞれp=0.358、0.123である。過去4週間の求職、週求職時間、ボランティア、自己評価健康、幸福度には系統的な効果がなかった。

相談群では中間時の「健康が悪い」が10.6ポイント減り標準p=0.015だったが、多重補正後p=0.154で頑健でない。したがって就業改善が自律性や健康を介したと因果的に断定できない。

日本に当てはめるときの注意

最大の障害は、給付額や所得審査を変えず就労条件だけを緩めた社会扶助実験で、UBIの所得効果を測っていないことである。

  • 適格者の約9%が任意参加し、参加者は非参加者より高学歴、受給期間が短く、就労履歴が良好だった。重み付けでも方向は同じだが、観察不能な選択は補正できない
  • 処置群各約188人と小さく、無作為化後にも免除群の学歴・移民背景・事前稼得に偶然の不均衡が残った
  • 多重検定補正後に強く残る結果は限られ、雇用の終了1年後効果は補正p=0.057である
  • 自営を行政記録から除き、調査には選択的脱落と実験者需要の可能性がある
  • 通常制度にも担当者裁量があり、免除処置との差が人によって小さい。日本の生活保護における就労指導、資産要件、扶養照会とは制度が異なる
  • 登録は処置開始後だった。データ収集・分析前で差異も開示されたが、完全な事前登録より保護は弱い
  • 欧州社会基金とオランダ研究評議会が資金提供し、ユトレヒト市が実施協力した。著者らは競合する金銭的利害・個人的関係なしと申告した
  • 公開PDFは2023年の機関リポジトリ版で、書誌と数値は2026年の査読掲載版を照合した