研究の背景
食料を現物で配る理由の一つは、現金では酒・たばこなどへ使われ、子どもの栄養が改善しないというパターナリズムである。本研究はメキシコの食料支援PALで、同価値の現金と食料バスケットが消費・栄養・健康をどう変えるかを直接比較した。
方法と対象
制度対象となる208村を、食料+教育、食料のみ、月150ペソの無条件現金、対照へ村単位で割り付けた。教育参加が実施上混ざったため、分析では二つの食料群を統合した。安全問題や誤配分などの10村を除き、198村5,556世帯を用いた。
| 群 | 処置 |
|---|---|
| 現物 | 10品目、現地小売価値約202ペソの食料箱 |
| 現金 | 月150ペソ、使途制限なし |
| 対照 | 実験期間中は給付なし |
2003〜04年の基準調査と2005年末の追跡で、7日間の世帯食料、24時間の子どもの摂取、身長、体重、疾病、血液による貧血を測定した。現金は現物の小売価値より25%低いため、消費比較では現金効果を202ペソ相当へ線形換算した。世帯脱落は現物10.5%、現金10.9%、対照15.3%だった。
結果
総食料では現物給付は現金と同じだった
全世帯が食料箱の価値以上をもともと食料へ支出しており、総食料としては現物が制約にならなかった。成人換算の総消費増は等価現金64ペソ、現物63ペソで差はなかった。食料消費増も等価現金36ペソ、現物51ペソで有意差がなかった。
個別品目では現物が選択を歪めた。箱の価値の平均44.8%は、現金なら買わなかった量に当たる一方、28.3%は調査週に消費されておらず、純粋な消費歪曲は平均16.5ポイント、約33ペソだった。粉乳やトウモロコシ粉は増えたが、現金群は果物、野菜、チーズなどを選んだ。
現金が嗜好品へ流れたとは言えなかった
酒への支出は現金・現物とも小さく増えたが群間差はなく、たばこは現金群で小さく減った。ジャンクフード・飲料も群間差がなかった。酒の購入は回答者が把握していない可能性があるが、別モジュールやTobit分析でも結論は変わらなかった。
子どもの健康には給付形態の差がなかった
現物群は鉄・亜鉛摂取がやや多く、推奨量以上の鉄摂取は9.6ポイント、亜鉛は10.8ポイント増えた。ビタミンCは現物19.9ポイント、現金13.7ポイント増えた。一方、子どもの身長、体重、疾病、貧血に現金と現物の有意差はなかった。疾病は対照比で現物7ポイント、現金9ポイント減った。
食料箱の梱包・倉庫・輸送費は1箱約30ペソ、卸売価値150ペソの20%で、共通行政費を除いても現金より少なくとも30ペソ高かった。
日本に当てはめるときの注意
最大の障害は、栄養不足のある貧困農村へ食料箱を配る比較であり、日本の現物サービスや全国UBIの比較とは市場・目的が違うことである。
- 現金150ペソを現物小売価値202ペソへ線形換算しており、健康結果は等価換算していない
- 対照村では資格情報がなく、対照比較に追加仮定が必要だが、現金対現物の直接比較には影響しにくい
- 追跡は約1年の受給後で、長期の身長・学力を測っていない
- 現物が望ましい政治的理由、価格安定、自己選別、不正防止は検証対象外である
- 日本でも用途制限の根拠を論じる際、最終健康成果と配送費を現金と同条件で比べる必要がある
- Stanford Institute for Economic Policy Researchの大学院フェローシップが公開稿を支援した。公開PDFは2010年稿、書誌は2014年査読版である
