研究の背景
現金給付は実施中の就学、結婚、妊娠、HIVを改善し得るが、終了後も人的資本として残るかは別問題である。本稿は、同じSIHR実験の給付中成果を扱う[「現金か条件か」](22_Baird_現金か条件か_2011.md)から約2年後を追跡し、条件付きと無条件の差を検証した。
方法と対象
2007年にゾンバ地区の未婚女性13〜22歳を登録し、176地域を88処置、88対照へ割り付けた。給付は2008〜09年の2年間、世帯主へ月4〜10ドル、少女へ月1〜5ドル、平均計約10ドルを年10か月支給した。
| 基準時の状態 | 処置 |
|---|---|
| 中退者 | 処置地域では就学率80%以上を条件とするCCT |
| 在学者 | 46地域CCT、27地域UCT、15地域は本人無給付の波及比較 |
| 対照 | 給付なし |
2007、08、10、12年に調査した。2012年は給付終了から2年以上後で、教育、結婚、妊娠、出生、HIV、労働、所得、資産、心理、エンパワーメントと出生児を測定した。対照群の脱落は対象別に約12.5〜15.7%で、逆確率重み、Lee境界、多重検定を用いた。
結果
中退少女へのCCTは教育と出生数に効果が残った
基準時中退者では、最終学年が0.6年増え、修了試験PSLC合格が8.1ポイント上がった。読解・数学能力への持続効果はなかった。結婚経験は10.7ポイント、妊娠経験は4ポイント、出生数は0.147人減り、初婚は0.43年、初産は0.27年遅れた。
しかしHIV、賃金労働、自営、所得、資産、貯蓄、心理的幸福、エンパワーメントには明確な持続効果がなかった。教育年数の増加が調査時点までに広い経済成果へ波及したとは確認できない。
在学少女へのUCT効果は多くが消えた
給付中に見られた結婚、妊娠、HIV、心理、栄養の改善は、終了2年後にはほぼ消えた。結婚経験、妊娠経験、出生数、初産年齢に有意差はなく、初婚年齢のみ約0.5年遅かった。HIVの50%以上の短期減少も残らず、給付後の新規感染はUCT群3.5ポイント、対照2.0ポイントだったが差は有意でない。
学校到達度と能力にも持続効果はなかった。UCT群のエンパワーメント指数は全体で-0.159標準偏差、既婚者で-0.342標準偏差だった。給付後に結婚・妊娠が集中し、配偶者の質が低かった可能性を著者は示すが、結婚者の選択も変わるため機序は確定しない。
子どもの結果には時期と選択が混ざった
UCT受給者が給付中に産んだ子の身長年齢比は調整後0.523標準偏差高かった。ただし母親の出産選択を調整すると未調整値0.953からほぼ半減し、給付終了後の出生児では消えた。CCT群の給付後出生児に0.10〜0.25標準偏差の改善があるが、出生選択を含む解釈は複雑である。労働・資産など多数の結果は多重検定後もnullだった。
日本に当てはめるときの注意
最大の障害は、就学、HIV、若年結婚・妊娠が主要制約となるマラウイの未婚少女への2年給付であり、日本の全年齢UBIとは対象も作用経路も違うことである。
- 中退者はCCTのみで、無条件給付との直接比較がない
- 給付額は世帯消費の約10%で、終了が予告された時限制度である
- 多数の指標と部分集団を調べており、補正後に残らない結果が多い
- 出生児の健康には母親の妊娠時期・選択が混ざり、単純な処置群比較では過大評価し得る
- 日本への重要な示唆は、給付中の改善を恒久効果とみなさず、終了後の反動とnull結果を追う必要がある点である
- GDN、Gates Foundation、3ie、NBER Africa Project、世界銀行関連資金などの支援を受けた。公開PDFは2016年世界銀行版、書誌は2019年査読版である
