研究の背景
条件付き現金給付は就学や受診を促す政策として普及したが、成果が現金そのものによるのか、条件による行動誘因なのかを直接分けた証拠は少なかった。条件を満たせない最も脆弱な人が給付から外れ、社会保護上の効果を失う可能性もある。
本研究は、同額程度の給付を就学条件付きと無条件に分け、無給付群とも比較した。就学だけでなく、学力、婚姻、妊娠まで同時に測り、条件の利益と費用を明らかにすることを目的とした。
方法と対象
対象は実験開始時に就学していた13〜22歳の未婚女性である。176調査区から得た2,907人のうち、条件性を比較できる161調査区、2,284人を分析した。
| 群 | 調査区 | 人数 | 処置 |
|---|---|---|---|
| 対照 | 88 | 1,495 | 給付なし |
| 条件付き給付(CCT) | 46 | 506 | 月間出席率80%以上で本人・保護者へ給付、学費も支給 |
| 無条件給付(UCT) | 27 | 283 | 就学・出席に関係なく同程度を月次給付 |
介入は2008〜2009年の2年間で、本人には月1〜5ドル、保護者には月4〜10ドルを無作為な金額で支給した。UCTでは平均学費分も上乗せし、両群の違いが条件の有無に近づくようにした。
学校在籍は本人申告と教員記録、出席は学校台帳、学力は英語読解、数学、Raven認知検査で測った。結婚と妊娠は3回の世帯調査で追跡した。最終世帯調査では2,284人中2,186人を追跡し、処置群間の差のある脱落は確認されなかった。一方、学校台帳を回収できた標本は限られる。
結果
条件付き給付は学校成果で優位だった
自己申告ではUCTの在籍効果が大きく見えたが、学校記録では逆転した。対照群とUCT群では在籍していないのに在籍と答える割合が高く、CCT群ではこの誤申告が9.3ポイント少なかったためである。
教員記録による2年間の在籍改善はCCTがUCTより大きく、群間差のp値は0.011だった。2009年の在籍者における出席率はCCTで8.0ポイント上昇し、年間10日超の追加出席に相当した。UCTの出席効果は有意でなかった。
英語読解はCCTで0.14標準偏差改善した(p=0.01)。UCTとの差も10%水準で有意だった。数学と認知検査もCCTで改善したが、UCTでは有意な学力向上を検出できなかった。総じてUCTの在籍効果はCCTの43%程度だった。
無条件給付は結婚と妊娠で優位だった
2年後の対照群の婚姻率は18.0%だった。CCTの低下は2.8ポイントで有意でない一方、UCTでは8.6ポイント、48%低下した。妊娠経験は対照群22.4%に対し、CCTはほぼ同じ、UCTは7.7ポイント、34%低かった。UCTの効果は、もともと中退しやすく、実際に学校を離れた少女に集中していた。
条件を満たしやすい若年層ではCCTの教育上の利益が大きい一方、年齢が高く中退リスクの高い層では、条件を満たせなくても所得を受け取れるUCTが婚姻・妊娠を遅らせた。著者は、若年ではCCT、年長ではUCTへ移る設計がトレードオフを緩和し得ると提案するが、これは本実験が直接検証した制度ではない。
日本に当てはめるときの注意
最大の障害は、中等教育へのアクセスと10代の婚姻・妊娠が密接に結び付いたマラウイの状況が、日本の教育・家族制度と大きく異なることである。
- 対象は就学中の未婚女性だけで、男子、中退者全体、成人世帯への効果ではない
- 給付は2年間であり、学力、卒業、所得、婚姻の長期結果は別途追跡が必要である
- 学校台帳の回収は不完全で、在籍者に限った出席率には選択の影響が残る
- 本人申告と行政・学校記録が逆の結論を示した点は、日本の給付評価でも客観記録を組み合わせる必要性を示す
- 条件は望ましい行動を増やしても、条件を満たせない高リスク層を排除し得る
- 研究は世界銀行、ゲイツ財団などの助成を受けている。公開版は2010年の世界銀行ワーキングペーパーで、書誌は2011年の査読版に合わせた
