研究の背景
不労所得と労働の相関には能力や選好が混ざるため、純粋な所得効果を測るのは難しい。本研究は、賞金を20年間の年金として受け取る宝くじを利用し、異なる当選額がその後の労働、所得、消費、貯蓄をどう変えたかを推定した。
方法と対象
対象は1984〜88年のMassachusetts Megabucks購入者である。1995〜96年に調査し、社会保障記録から当選前後各6年以上の所得を結合した。基本標本496人は、少額の一括当選者259人、年約1.5万ドルの当選者93人、年約8万ドルの大口当選者144人だった。全体の回答率は46%である。
| 比較 | 年間当選額の目安 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 少額対照 | ほぼ0 | 基準群 |
| 中口 | 約15,000ドル×20年 | 中程度の所得効果 |
| 大口 | 約80,000ドル×20年 | 大きな所得効果 |
当選者間にも購入枚数、当選前所得、回答率の差があるため、OLSと傾向スコア法を併用した。公開PDFは1999年NBER版で、書誌は2001年の査読版に合わせている。
結果
中程度の賞金では労働反応は小さかった
年約1.5万ドルを受け取る群は、少額当選者と比べて労働時間、就業、所得を有意に減らさなかった。大きな事前貯蓄を減らす証拠も明確でない。著者は、小口所得では将来に備えた貯蓄需要が残る可能性を挙げる。
大口賞金では労働が減った
年約8万ドル群を年約1.5万ドル群と比べると、労働時間、就業、社会保障所得はいずれも低下した。推定法別の時間弾力性は約-0.18、-0.06、-0.11、当選6年後の所得弾力性は約-0.41、-0.20、-0.29だった。就業の弾力性も約-0.30〜-0.16で、反応は時間とともに大きくなった。配偶者の労働への有意な影響はなかった。
自動車と貯蓄は増え、住宅純資産は明確でなかった
大口群の自動車価値は約5,500〜8,000ドル高かった。住宅価値は約3万ドル高いが、住宅ローンも約2万ドル多く、住宅純資産の差は有意でなかった。総貯蓄の所得弾力性は約0.33〜0.51、貯蓄率は約3ポイント高かった一方、退職口座への影響は有意でなかった。
性別・年齢別の差は概して有意でない。当選前所得ゼロの人では小口賞金後の就業が増える兆候があり、一律に「所得が就業を減らす」とは言えない。
日本に当てはめるときの注意
最大の障害は、宝くじ購入者への予期しない私的賞金であり、課税財源による社会保障給付とは受給者も心理的な意味も違うことである。
- 回答率46%で、非回答が当選額や労働反応と関係する可能性が残る
- 宝くじ購入者はリスク選好などが一般人口と異なり得る
- 大口群の年8万ドルは日本の想定UBIより大きく、線形外挿できない
- 給付は20年続くが、普遍性も財源課税もない
- 1980〜90年代の米国の税・雇用・住宅市場を反映する
- NSF、Sloan Fellowship、マサチューセッツ州宝くじ委員会の協力を受けた。著者は誤りの責任は自らにあるとしている
