UBI研究機構 資料データベース / 途上国の給付 PAPER 21
途上国の給付 / ケニア西部 / RCT / 2016

無条件現金給付の短期効果 — ケニア農村の家計・心理・ストレス

原題:The Short-Term Impact of Unconditional Cash Transfers to the Poor: Experimental Evidence from Kenya

種別
論文・研究資料
発表年
2016
地域
ケニア西部
手法
RCT
出典
The Quarterly Journal of Economics, 131(4), pp.1973–2042(2016年)
この論文の要点
01

月間消費と資産保有が大きく増えた

02

幸福度は改善したがコルチゾールは不変だった

03

分割給付と一括給付で使途が異なった

研究の背景

現物・技能・条件付き給付が広く用いられる一方、貧困世帯へ使途を指定せず現金を渡した場合に、消費、投資、健康、家庭内関係や心理状態がどう変わるかについて、当時の厳密な証拠は限られていた。とくに、受取人の性別、分割か一括か、金額の大小を無作為に変えた比較や、自己申告の幸福度と生理指標を同時に測る研究は少なかった。

本研究はGiveDirectlyによる比較的大きな一時的給付を使い、家計平均だけでなく制度設計の違いと近隣への波及を検証した。既存のケニア長期UBI研究とは別の、2011〜2013年に行われた短期給付実験である。

方法と対象

60村を処置村と対照村に無作為化し、処置村では藁葺き屋根を持つ適格世帯の半数を受給世帯、残りを同村内の非受給世帯とした。ベースラインの処置・同村対照は各503世帯と505世帯で、別の対照村から432世帯も調査した。

比較内容
小口給付計25,200ケニア・シリング、購買力平価404ドル
大口給付計95,200シリング、購買力平価1,525ドル
分割9か月にわたり月2,800シリング
一括同程度の小口総額をまとめて送金
受取人同居男女がいる世帯では妻か夫へ無作為に送金

給付はM-Pesaで行われ、用途、就労、就学などの条件はなかった。503受給世帯のうち18世帯は登録問題などでエンドライン時点までに受け取れなかったため、分析は割付に基づくITTである。約9か月後の追跡率は、受給群94%、同村対照群93%だった。

主な指標は消費、資産、事業収入・費用、食料安全保障、健康、教育、女性の意思決定力、家庭内暴力、幸福度、生活満足度、ストレス、抑うつ、唾液中コルチゾールである。多数の検定には事前分析計画、指数化、家族単位誤差率補正を用いた。

結果

消費、資産、事業活動

月間非耐久消費は同村対照平均158ドルに対し、購買力平価で36ドル増えた。アルコール・たばこ支出の推定値は負で有意ではなく、浪費品への増加は確認されなかった。ただし検出力が十分でなく、中程度の増加まで完全に否定した結果ではない。

資産保有は対照平均495ドルに対し302ドル増え、家畜、家具、金属屋根などに向かった。農業・畜産・事業の月間収入は対照平均49ドルに対し16ドル増えたが、費用も13ドル増えたため、短期の利益増は有意でなかった。健康・教育には大きな平均効果がなかった。

心理状態とコルチゾール

幸福度は0.16標準偏差、生活満足度は0.17標準偏差改善し、知覚ストレスは0.26標準偏差低下した。抑うつも有意に減った。一方、ストレスホルモンであるコルチゾールの平均効果はゼロだった。自己申告指標がより敏感だった可能性と、期待に沿う回答が混ざった可能性の両方を著者は挙げている。

コルチゾールは妻への給付、一括給付、大口給付で相対的に低かったが、処置間比較は標本が小さく、強い結論にはできない。家庭内対立や暴力の増加も確認されず、女性の意思決定力には改善がみられた。

配り方で結果が変わった

月次給付は一括給付より食料安全保障を改善し、一括給付は金属屋根など高額資産の購入を増やした。将来の分割給付を担保に借りられず、自力で十分に貯蓄もしにくいという信用・貯蓄制約と整合する。大口給付は多くの成果をより改善したが、効果は金額に比例せず限界効果が逓減する傾向だった。

妻と夫のどちらに送るかによる消費・投資の差は少なかった。ただしこの比較の検出力は低く、「受取人の性別は重要でない」と確定したものではない。同村非受給世帯への波及も大半は小さく非有意だったが、対照村世帯の選定に内生性があり、波及推定には追加の境界分析が必要だった。

日本に当てはめるときの注意

最大の障害は、給付が短期・一時的な海外資金であり、税財源による恒久的な全国UBIと所得期待も財政循環も違うことである。

  • 対象は藁葺き屋根を基準に選ばれた極貧世帯で、普遍給付ではない
  • 給付と同時にSIMカードやM-Pesa登録支援も提供され、金融アクセス改善の影響が一部混ざり得る
  • エンドラインは給付開始から約9か月後で、利益、教育、健康の長期効果を評価できない
  • 一括と月次、男女、大口と小口の交差比較は検出力が低く、null結果を過大解釈できない
  • 日本でも一時金と定期給付で消費・耐久財購入が変わる可能性はあるが、金融アクセスや貯蓄手段の違いを考慮する必要がある
  • ShapiroはGiveDirectlyの共同創業者で元理事である。論文はこの関係を開示し、見解はGiveDirectlyを代表しないとしている