研究の背景
所得と乳幼児死亡には強い相関があるが、所得を無作為化して稀な死亡を検出するには巨大標本が要る。本研究は、[同じケニア実験の一般均衡研究](20_Egger_現金給付の一般均衡効果_2022.md)を2023年まで追跡し、出生10万件超から死亡、死因、医療利用と母親の行動を分析した。
方法と対象
653村で村と上位地域の給付密度を二段階無作為化した。藁葺き屋根を基準とする貧困世帯10,500超に、2015〜17年、M-Pesaで3回合計1,000ドルを支給した。年間世帯支出の約75%に当たる一時金である。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 村割付 | 高密度地域は3分の2、低密度地域は3分の1の村を処置 |
| 世帯 | 処置村の全資格世帯へ給付、非資格世帯も波及分析 |
| データ | 101,405出生、給付期の資格世帯6,347出生 |
| 追跡 | 2023年出生歴調査は653村の92%超、基準世帯の94%が地域内 |
村内・近隣村への波及を含む空間IVを主に用い、出生年、母年齢、子の性別などを調整した。4,720件の5歳未満死亡の91%にWHO方式の口頭剖検を行った。主要死亡結果は事前登録されたが、分析計画の一部は新しい計量手法を踏まえ、データ収集中・分析前に修正された。
結果
給付期間の乳幼児死亡が大きく減った
空間的波及を含む主推定では、乳児死亡が出生1,000件当たり19.5件減り、対照平均40.2件に対して48%減だった。5歳未満死亡は25.6件減り、対照平均57.4件に対して45%減だった。ともにp<0.01で、多重検定補正後も5%水準で有意だった。
単純な二段階割付に沿う推定でも乳児死亡17.9件、5歳未満死亡17.6件の減少だった。2011〜14年の事前期間には差がなく、給付終了後の2018〜21年には乳児死亡の有意差がなかった。
現金の到着時期が決定的だった
出産月に給付期間が重なった子では乳児死亡が1,000件当たり39.7件減った。妊娠前に全給付を受け終えた世帯ではほぼ効果がなく、貯蓄して将来の出産費用へ回す行動は限定的だった。給付後の出生率は一時的に約10%増えたが、死亡減少は妊娠開始後に処置を知った出産でも直ちに現れ、出生選択だけでは説明できない。
新生児期、母親の休息、病院出産が主要経路だった
母体・新生児関連死は1,000件当たり11.4件、対照比75%減り、死亡減少の最大部分を占めた。病院出産は20ポイント、対照44%から45%増えた。ただし病院から遠い地域でも死亡は約20件減り、医療利用だけでは説明できない。
出産前後3か月の女性の週労働は24.48時間、対照比53%減った。乳児がいる女性の健康指数は0.28標準偏差、子どもの食料安全保障は0.18標準偏差改善した。男性や妊娠・乳児のいない女性の労働には同様の差がなく、母親の休息と栄養が整合的な経路である。ただし労働の部分集団分析は事前登録されていない。
費用対効果は対象化の仮定に左右された
給付期に約86人の5歳未満死亡を回避した試算で、実際の広い給付は1死亡回避当たり購買力平価約29.9万ドルだった。妊娠後期の世帯だけへ同額を給付し、平均効果が維持されると仮定すると約9.2万ドルになる。後者は実験した政策ではなく、波及の減少や出生反応を十分に含まない試算である。
日本に当てはめるときの注意
最大の障害は、乳児死亡率が高く医療・栄養への流動性制約が強い農村での大口一時金であり、日本の低い乳児死亡率では同規模の効果余地がないことである。
- 対象は藁葺き屋根の貧困世帯で、普遍給付ではない
- 効果は給付時期に強く依存し、恒久的な健康改善ではなかった
- 死因は医療記録でなく口頭剖検で、死産と新生児死亡の区別にも測定誤差がある
- 空間IV、部分集団、費用対効果には追加仮定が入り、すべてが事前登録済みではない
- 日本への示唆はUBI一般より、妊娠・出産期の所得保障と休業補償のタイミングにある
- NSF、IGC、PEDL、Weiss Family Foundation、匿名寄付、Open Philanthropyの資金を受けた。未査読のNBERワーキングペーパーである
