UBI研究機構 資料データベース / 健康・幸福度 PAPER 28
健康・幸福度 / インド(マディヤ・プラデーシュ州インドール県) / クラスターRCT / 2015

ベーシックインカムは健康を改善するか — インド農村の実験

原題:Basic Income—Healthy Outcome? Effects on Health of an Indian Basic Income Pilot Project: A Cluster Randomised Trial

種別
論文・研究資料
発表年
2015
地域
インド(マディヤ・プラデーシュ州インドール県)
手法
クラスターRCT
出典
Journal of Development Effectiveness, 7(1), pp.111–126(2015年)
この論文の要点
01

軽い病気・けがのオッズが46%低下した

02

入院を要する疾病には有意差がなかった

03

予防接種は高水準で追加効果がなかった

研究の背景

所得は栄養、住居、衛生、医療利用、ストレスを通じて健康へ影響し得る。しかし途上国の現金給付研究では条件付き制度が多く、地域の全住民へ個人単位で無条件給付するベーシックインカムの健康効果はほとんど検証されていなかった。

Self Employed Women's Association(SEWA)とUNICEFによるインド農村パイロットは健康、教育、就労、金融包摂などを広く調査した。本論文はそのデータから、病気・けが、入院、幼児予防接種の3項目を再分析した。

方法と対象

インドール県の20村を村単位で無作為化し、8村を給付、12村を対照とした。対象は2,034世帯、11,688人である。

群世帯数処置
BI村938成人月200ルピー、18歳未満月100ルピー
対照村1,096給付なし

給付は2011年6月から12か月間を予定し、その後資金確保により5か月延長された。子ども分は母親へ支払い、使途、就労、就学、受診条件はなかった。当初一部は現金、その後は銀行口座へ送金した。

主要アウトカムは、過去3か月に24時間超続き治療を要したが入院しなかった病気・けが、過去12か月に入院を要した病気・けが、6か月〜5歳児全員の4種予防接種完了である。

ベースライン調査は委託先の訓練・管理不足で約25%の票が紛失し欠測が多かった。また20村しか無作為化しておらず、23共変量中8項目に群間差があった。著者は多重代入、傾向スコアマッチング、重み付きロジスティック回帰で調整した。論文著者は実験実施に関与していない。

結果

軽い病気・けがは少なかった

給付村で軽い病気・けががある世帯のオッズ比は0.54(95%信頼区間0.44〜0.65)で、対照村より46%低かった。ベースライン変数を除く分析は0.56、欠測を多重代入せず完全例だけで行う分析は0.62で、方向と有意性は維持された。

給付による栄養、住居、衛生、医療、所得不安、地域的結束の変化が経路として考えられるが、本論文はどの機序が効いたかを識別していない。アウトカムは世帯の自己申告で、診療記録による確認もない。

入院と予防接種には差がなかった

入院を要する病気・けがのオッズ比は1.07(95%信頼区間0.89〜1.29)で有意でなかった。給付額または期間が重症疾病を変えるには小さかった可能性があるが、効果ゼロの機序は判別できない。

全幼児の予防接種完了のオッズ比は1.04(95%信頼区間0.60〜1.82)だった。両群とも完了率が約90%と高く、改善余地が小さかった。信頼区間も広く、増減双方を十分に除外できない。

因果解釈には設計上の弱点がある

村全体への給付は地域経路を含むBI研究として適切だが、無作為化単位20に対して分析単位が世帯で、群間不均衡が大きい。傾向スコアは観測変数しか補正せず、未観測差は残る。健康調査も実験全体の一部で、生活の質、自己評価健康、BMI、貧血、コルチゾールなどは測定していない。

日本に当てはめるときの注意

最大の障害は、村数が20と少なく、ベースライン欠測と群間不均衡を事後的なマッチングで補っているため、単純なRCTとして強く因果解釈できないことである。

  • 給付額は貧困世帯所得の25〜30%で、日本の所得・医療制度と相対的価値が違う
  • 世帯自己申告の病気・けがで、診断、重症度、医療費、欠勤日数は確認していない
  • 日本は皆保険と高い予防接種率を持ち、給付が医療アクセスへ作用する経路が異なる
  • 給付と同時に銀行口座開設支援やSEWAの地域活動があり、現金単独効果と分けにくい
  • 入院と接種のnull結果も含め、健康費用削減をこの1研究から試算すべきではない
  • 実験はUNICEFが資金提供しSEWAが実施した。著者は実施に関与せず、利益相反なしと申告している