研究の背景
低所得と子どもの精神健康・性格には相関があるが、親の能力、健康、選好が混ざる。東部チェロキー族のカジノ開業後、成人部族員全員へ利益配当が始まった。本研究はこの外生的な所得増を利用し、思春期までの行動、情緒、性格と家庭内関係を追った。
方法と対象
Great Smoky Mountains Studyは1993年、9・11・13歳の子ども1,420人を11郡から抽出し、チェロキー族350人を過大抽出した。16歳まで毎年、19・21歳にも追跡した。第4波後の1996年にカジノが開業し、成人部族員へ1人年約4,000ドルを半年ごとに無条件配当した。部族員成人2人の世帯では基準所得22,145ドルの約20%に相当した。
| 比較 | 16歳までの配当曝露 |
|---|---|
| 入口9・11歳の部族児 | 13・15歳頃から受給世帯で生活 |
| 入口13歳の部族児 | 主要16歳成果までの曝露なし/短い |
| 非部族児 | 全コホートで配当なし |
行動・情緒障害症状と、質問項目から構成した誠実性、協調性、神経症傾向を年齢内標準化した。個人、調査波、年齢、年齢×部族の固定効果を入れた。前処置トレンドと偽処置、福祉改革、親の雇用・婚姻、連邦・部族支出も確認した。脱落率に処置・対照差はなかった。
結果
行動・情緒と二つの性格指標が改善した
部族児集団内の標準偏差でみると、配当は行動障害症状を0.267、情緒障害症状を0.356標準偏差減らした。誠実性は0.428、協調性は0.306標準偏差高まった。神経症傾向の点推定は正だが有意でなかった。回帰表の全標本標準化係数とは尺度が異なるため、著者は部族児の処置前分散で換算している。
改善は、処置前に症状が多い、または性格指標が低い子ほど大きかった。性格の初期値との交互作用は3指標すべて負で有意だったが、行動・情緒症状の交互作用は負でも有意でなかった。
親子・夫婦関係が改善した
親の監督は部族児標準偏差の約50%、子が報告する親との良好な関係は約39.7%改善した。親が報告する夫婦関係の悪さは約25.2%、親子の口論は約32.7%減った。親の就業や婚姻状態に有意な変化はなく、親と過ごす時間より関係の質が経路として整合的だった。
親自身・配偶者の薬物・酒使用は多くがnullで、配偶者について親が報告した指標のみ有意に低下した。精神科治療歴も父親相当で低下したが、精神健康改善と受診回避を区別できない。
一部世帯はより所得の高い地域へ移った
配当後の転居確率は約7ポイント高く、主に予約地外に住んでいた部族世帯が動いた。部族員だけの分析では、転居先の国勢調査区の世帯所得中央値が約2,086ドル高かった。ただし小標本で、教育水準など他の地域差は弱く、子の改善をどれだけ媒介したかは確定しない。
16歳指標と25歳成果の関連分析では、誠実性の改善が教育差の約28%、情緒症状低下が約21%に対応した。ただし非部族児で推定した相関を掛けた説明的分解であり、25歳成果への因果的媒介効果ではない。
日本に当てはめるときの注意
最大の障害は、部族カジノ利益による大きく恒久的な配当で、部族員資格と地域経済の変化が同時に起きた準実験であることである。
- 無作為化ではなく、部族児と非部族児・年齢コホートの共通トレンドを仮定する
- カジノ開業は雇用、公共収入、地域環境も変え得る。著者は関連制度を点検したが未観測の同時変化を排除できない
- 性格指標はBig Five専用尺度でなく既存の精神医学面接項目から構成した
- 1世帯1児のため兄弟間配分を分析できず、消費・教育支出データもない
- 日本への示唆は給付額だけでなく、親のストレスと家庭関係を中間成果として測る必要性にある
- NIMH、NIDA、NARSAD、William T. Grant Foundationが研究を支援した。公開PDFは2015年NBER版、書誌は2018年査読版である
