UBI研究機構 資料データベース / AI・経済 PAPER 56
AI・経済 / 世界17地域(UBI分析は米国) / 世代重複型・計算可能一般均衡モデルによる政策シミュレーション / 2021

自動化の利益をUBIで共有できるか — 世界17地域の一般均衡シミュレーション

原題:Simulating Endogenous Global Automation

種別
論文・研究資料
発表年
2021
地域
世界17地域(UBI分析は米国)
手法
世代重複型・計算可能一般均衡モデルによる政策シミュレーション
出典
NBER Working Paper No. 29220(2021年9月)
この論文の要点
01

自動化は国内外の格差を拡大した

02

米国UBIは低技能層の損失を補えた

03

結果はモデル仮定に強く依存する

研究の背景

自動化は資本集約度と高技能労働への需要を高める一方、低技能労働の賃金や労働分配率を下げる可能性がある。しかも技術を早く採用できる国へ資本が移れば、国内の賃金格差だけでなく国家間の所得格差も広がり得る。本研究は、企業が採算に応じて自動化技術を採用する世界経済モデルを構築し、自動化の利益をUBIで分配すれば各世代の損失を防げるかを数値的に検討した。

方法と対象

150か国超を米国、西欧、日本・韓国・シンガポール・香港、中国、インドなど17地域にまとめ、世界人口の99%、GDPの98%を覆う。各地域には高・中・低の3技能層と0〜100歳の101世代があり、家計は労働、消費、貯蓄を選ぶ。企業は資本と3技能の労働を使い、従来技術と、その時点の資本・高技能偏向型フロンティア技術のうち採算の高い方を選ぶ。資本は地域間を移動し、世界利子率と各地域の賃金・税率が同時に決まる。

2017年を基準年とし、国連の人口予測、IMFの資本・財政データ、World Inequality Database、ILO、OECD、米国家計金融調査などから464の人口・財政・選好・技術パラメータを較正した。基準シナリオでは1980〜2017年の米国の生産要素シェア変化が2050年まで続くと仮定し、次と比較した。

  • 2017年以降に追加の自動化がない場合
  • 米国だけが新技術を利用できる場合
  • 技能偏向がない自動化
  • 自動化速度が過去の2倍、5倍、10倍の場合
  • 採算が合わない地域にも自動化を義務づける場合
  • 米国で既存制度に上乗せするUBIを導入する場合

UBIは、どの生年・技能層も「自動化なし」より悪くならない最小の経路を探索した。これは観察データからUBIの効果を推定した研究ではなく、設定したモデル内の反実仮想である。

結果

自動化の利益は先進地域に偏った

基準シナリオの2050年GDPは、自動化なしと比べて西欧で12.9%、日本等4か国で12.7%、カナダ等3か国で12.1%、英国で10.0%、米国で5.1%高くなった。中国は2027年まで採用を遅らせ、インド、ブラジル、サブサハラ・アフリカなどは遅れて採用するか採用しなかった。

自動化地域へ資本が移るため、メキシコの2050年GDPは自動化なしより3.6%低く、稼働可能な資本は9.2%少なかった。著者らのモデルでは、技術を利用できることだけでなく、TFP、法人税、初期の資本集約度が採用時期と国際的な勝敗を左右した。

世界利子率は自動化なしなら2017年の6.0%から2050年に2.8%へ下がり、自動化ありでは3.2%までの低下にとどまった。自動化が利子率を押し上げる効果は、人口高齢化と中国・インドの貯蓄による世界的な資本蓄積に比べて小さかった。

低技能層の賃金・厚生が悪化した

米国では2017〜2050年に高技能賃金が28.8%上がる一方、低技能賃金は22.8%下がった。2050年時点で、世界の高技能労働者の92.5%は自動化によって厚生が改善したが、低技能労働者の85.7%、全労働者の71.5%は悪化した。平均的労働者の残存生涯厚生は自動化なしより0.9%低かった。

米国の2020年生まれでは、高技能層の生涯厚生が24.2%改善する一方、低技能層は12.8%悪化した。これらは実測値ではなく、技能別の生産シェアと資本移動を仮定したモデル結果である。

UBIはモデル内で全世代の損失を防いだ

提案された米国UBIの費用はGDP比で2025年1.9%、2050年5.1%、2100年3.9%だった。2050年には成人1人当たり月約650ドル(2017年価格)に相当し、既存の社会保障・移転制度に追加される。

最初の20年間を国債で賄い、2037年以降は中・高技能層への累進所得税で返済する設計である。高技能層の平均所得税率は10〜14ポイント上がって49〜53%、中技能層は3.5〜5ポイント上がって26〜28%となった。高技能層だけでは税源が不足し、中技能層がUBI財源の20〜30%を負担する必要があった。

このUBIにより、若い低技能層は自動化なしとほぼ無差別になり、高技能層にも正の利益が残った。例えば1980年生まれ高技能層の厚生改善はUBIなし8.7%からUBIあり4.7%へ、2050年生まれは24.2%から4.5%へ縮小した。

UBIは2050年GDPを自動化のみの場合より2.3%下げたが、それでも自動化なしより高い水準だった。消費税で同じパレート改善を目指すと低技能層にも負担が及び、所得税方式よりGDP比1.5〜2.5%多く給付が必要になった。法人所得税だけなら約100%、資本所得税なら40%超の税率が必要になるという結果だった。

日本に当てはめるときの注意

最大の障害は、これは自動化やUBIの実測効果ではなく、2017年以前のデータと多数の仮定から作った超長期シミュレーションであることである。

  • 自動化を資本・高技能偏向型のコブ・ダグラス生産技術として表しており、生成AIが新しい業務や製品を生む経路は粗い
  • 人を3技能に分け、技能は親から子へ引き継がれ生涯変わらない。再訓練、職業転換、企業内配置転換を十分に表さない
  • 米国で推定した一部の選好・資産分布・税の累進性を他地域にも適用している
  • 基準の技術進歩は1980〜2017年の米国の要素分配率を2050年まで延長したもので、2020年代の生成AI普及を観察して較正していない
  • UBIは既存制度への上乗せであり、給付統合を想定する日本の制度案とは財政規模が異なる
  • 20年間の赤字財政と、その後の大幅な技能別所得増税を政府が約束できる前提で、政治的実現可能性や移住、租税回避を扱わない
  • 「全員が得をする」は自動化なしとの比較であり、UBIなしの自動化に比べると中・高技能層の利益は減る
  • Alfred P. Sloan Foundation、Gaidar Institute、Boston Universityの支援を受けた。著者見解はNBERや米州開発銀行を代表しない
  • 査読を受けていないNBERワーキングペーパーであり、著者自身が暫定研究であると明記している