UBI研究機構 資料データベース / 健康・幸福度 PAPER 46
健康・幸福度 / ドイツ全国 / 事前登録RCT・給付終了18か月後追跡 / 2026

月1,200ユーロの基礎所得は心の健康を改善したか — ドイツ3年間RCT

原題:Cash Transfers, Mental Health, and Agency: Evidence from an RCT in Germany

種別
論文・研究資料
発表年
2026
地域
ドイツ全国
手法
事前登録RCT・給付終了18か月後追跡
出典
DIW Discussion Paper No. 2129, Updated Version(2026年3月23日)
この論文の要点
01

心の健康と生活満足度が大きく改善した

02

改善の約9割が終了後も持続した

03

自律性・貯蓄・睡眠にも改善が見られた

研究の背景

低所得とメンタルヘルスの悪化は高所得国でも関連する。しかし近年の高所得国における現金給付RCTでは、心理的厚生の改善が一貫して確認されていなかった。著者らは、給付が少額・短期で、将来の安心や自ら生活を変える主体性を生むには不足していた可能性に注目した。無条件・定期的・個人単位で十分に大きな給付が、精神健康、人生の目的、生活満足度を改善し、終了後にも残るかを検証した。

方法と対象

実験の募集、対象、割付は[ドイツ基礎所得パイロット索引](00_ドイツ基礎所得パイロット_索引と共通設計.md)と共通する。

群人数処置
基礎所得群107月1,200ユーロを36か月
対照群1,580給付なし、同じ追跡調査

ベースライン後に8回追跡した。第1〜6波は給付期間中に6か月間隔、第7波は終了6か月後、第8波は終了18か月後である。処置群は給付中の6波すべてに回答した。対照群では71%が6波すべて、79%が5波以上、88%が3波以上、97%が少なくとも1波に回答し、著者らの点検では選択的脱落の明確な証拠はなかった。

精神健康はWHO-5と知覚ストレス尺度5項目、ウェルビーイングは人生の目的、一般生活満足度と領域別満足度で測った。主要3領域を標準化して平均したメンタルヘルス・ウェルビーイング(MHW)指数も用いた。層別無作為化に対応した頑健標準誤差、NeymanとFisherのp値を示し、多数の検定にはBenjamini–Hochberg補正を行った。

結果

給付中の主要3領域が改善した

給付中のアウトカム効果(標準偏差)標準誤差Fisher p値
精神健康+0.3060.0740.002
人生の目的+0.2500.0870.004
生活満足度+0.4260.075<0.001
MHW総合指数+0.379——

精神健康の改善はWHO-5(+0.319標準偏差)と知覚ストレス(良い方向へ+0.295標準偏差)の双方に現れた。一般生活満足度は+0.351標準偏差だった。

領域別では所得満足+0.551、健康+0.291、睡眠+0.290、余暇+0.245標準偏差が有意に改善した。仕事満足は+0.143(p=0.138)、社会生活満足は+0.125(p=0.082)で、通常の5%水準では有意でなかった。42検定のうち41の有意結果はBenjamini–Hochberg補正後も維持され、例外は終了6か月後の睡眠満足だった。

終了18か月後にも主要効果が残った

時点MHW指数の効果
給付中平均+0.379標準偏差
終了6か月後+0.331標準偏差
終了18か月後+0.362標準偏差

2回の終了後調査を平均すると、給付中効果の約91%が残った計算になる。終了18か月後も精神健康+0.278(p=0.011)、人生の目的+0.314(p=0.003)、生活満足度+0.336標準偏差(p=0.009)だった。

一方、終了18か月後の所得満足(+0.125、p=0.321)、余暇(+0.186、p=0.190)、社会生活(+0.163、p=0.136)、仕事(+0.217、p=0.091)は有意でなかった。すべての生活領域が恒久的に改善したわけではない。

主体性に関わる変化は探索的結果である

処置群は月平均で約455ユーロ多く貯蓄し、給付の7〜8%を家族・友人への援助や寄付に回したと自己申告した。友人と過ごす時間は週1.3時間増え、睡眠は変化量の推定で週2.5時間増えた。ただし水準を使う別推定では睡眠増加は週1.2時間で有意でなかった。主観的自律性は+0.320標準偏差改善した。

これらは事前登録された主要アウトカムではなく、メンタルヘルス改善の媒介を因果的に証明しない。毛髪コルチゾールは事前登録されていたが、参加が少なく有効標本を確保できず分析されなかった。

日本に当てはめるときの注意

最大の障害は、非常に選択された小標本の自己申告アウトカムであり、全国的な恒久制度の健康効果を直接示していないことである。

  • 単身・21〜40歳・所得が平均以下・開始時に長期失業していない応募者が対象で、家族内交渉や子育て負担を含まない
  • 処置群107人と小さく、追跡回答率は高いが、尺度への慣れや実施団体への期待による需要効果を完全には除けない
  • 著者らは需要効果の点検を行っているが、主要アウトカムはすべて自己申告で、生理指標の毛髪コルチゾールは分析不能だった
  • 3年後に終わると分かっている民間給付であり、恒久制度の安心感や、増税・既存給付削減が同時に起きる場合と異なる
  • 貯蓄、分与、友人との時間、睡眠、自律性は探索的で、改善経路を確定した結果ではない
  • 実施主体の Mein Grundeinkommen は基礎所得推進団体で、主に民間の小口寄付で資金を提供した。研究はケルン大学倫理審査(20008FS)を受けたが、独立した利益相反申告欄はない
  • 初版は2025年だが、ここでは2026年3月23日の更新版を要約した。査読前のDiscussion Paperであり、今後変わる可能性がある