研究の背景
現金を無条件に渡したとき、低所得の親が子どもへ時間と金銭を投じるのか、就労を減らすのかは、米国の児童貧困政策で中心的な論点である。税額控除や現物給付では現金所得と制度条件の効果を分けにくく、出生直後から予測可能な月次所得だけを無作為化した証拠は乏しかった。
Baby's First Years(BFY)は、出産直後の母親へ無条件の現金を長期間支払い、家族過程と子どもの発達を追うRCTである。本論文は最初の3年間の所得、就労、保育、親子活動、支出、主観的幸福を扱う。
方法と対象
2018年5月〜2019年6月、4都市圏12病院で、前年世帯所得が連邦貧困線未満、正期産で健康な新生児を持つ母子1,000組を登録した。母親の39%がBlack、42%がLatinaで、ベースライン平均世帯所得は22,313ドルだった。
| 群 | 割合 | 給付 |
|---|---|---|
| 高額給付 | 40% | 月333ドル、年3,996ドル |
| 低額対照 | 60% | 月20ドル、年240ドル |
差額は月313ドル、年3,756ドルで、3人世帯の貧困線所得を約20%増やす。給付は「4MyBaby」デビットカードへ毎月自動送金され、用途・就労条件はない。税金や主要公的給付の資格へ影響しないよう州法・行政判断を整えた。
1、2、3歳時の調査回答率は93%、92%、92%で、3波すべて回答した家族は857組だった。主分析はITTで、ベースライン共変量と地域を調整し、事前登録した成果群では多重検定補正を行った。
結果
貧困率は下がったが大半は低所得のままだった
3年間を統合すると、高額群の貧困状態は効果量マイナス0.14(95%信頼区間に対応する率差マイナス10.6〜2.5ポイント、p=0.002)、所得・ニーズ比は11.2%高かった。純月間所得は245ドル増(95%信頼区間100.00〜390.33ドル)で、給付差313ドルを下回ったが、母親や他世帯員の所得減はいずれも有意でなかった。
3歳時点でも両群の94%以上が貧困線200%以下だった。貯蓄、口座、債務、純資産にも多重検定補正後の差はなかった。高額群は公的サービスの受給種類が少なく、エネルギー支援、Medicaid、住宅支援の受給報告が低かったが、給付自体は資格判定から除外されており、申請しなかったのか別理由で資格を失ったのかは分からない。
子ども向けの金銭・時間投資が増えた
高額群は直近1か月の対象児向け支出を平均67.8ドル、19%多く報告した(95%信頼区間28.80〜106.57ドル、p=0.001)。内訳は本11.60ドル、玩具18.32ドル、活動15.34ドル増だった。年換算では給付差3,760ドルの約26%、984ドルが本、玩具、活動、衣服、おむつ、電子機器などへ向かった。
読み聞かせ、物語、組み立て遊びなどの親子活動指数も有意に高く、換算すると週11.3分、5.2%増だった。ただしこれは頻度カテゴリから分数へ変換した推計で、タイムダイアリーによる直接計測ではない。
就労、一般支出、幸福度はほぼ変わらなかった
母親が有給労働へ参加する確率と子どものセンター保育利用に有意差はなかった。週20時間以下の就労は増え、40時間以上は減ったが、労働市場からの退出ではなく時間配分の端での変化だった。
家賃、光熱、食費、通信など個別の一般支出は、外食の月25.60ドル増を除き有意差がなかった。酒類支出は月約2.80ドルで差がなく、たばこは一部時点で低かった。母親の幸福、希望・主体性、経済的不安、精神健康、育児ストレスにも平均的な改善はなかった。3歳時点の幸福度は高額群がむしろ低かったが、全期間で一貫した効果ではない。
日本に当てはめるときの注意
最大の障害は、民間慈善資金を、出産時に研究参加へ同意した貧困世帯の母親だけへ給付しており、公的な普遍制度の税・申請・政治効果を含まないことである。
- 対象は正期産で健康な新生児を持つ英語・スペイン語話者で、早産児、重い健康問題、父子世帯などを含まない
- 「4MyBaby」という名称と出生直後の説明が子ども向けの心理的ラベルとして作用した可能性がある
- 支出項目は全家計を網羅せず、自己申告とATM引出し後の使途不明がある
- コロナ禍の給付・行動制限が追跡期間に重なったが、無作為比較自体は維持される
- 子ども向け投資が増えたことと、子どもの発達成果が改善したことは別である
- 著者は競合利益なしと申告し、多数の政府・財団助成を受けた。PMCは2024年査読版全文、NBER公開版は1年目中心の旧稿であり、本要約は査読版の3年結果を用いた
