研究の背景
AIが人間の仕事を代替するのか、生産性を高めて新しい仕事を生むのかについては、企業単位の採用データが乏しく、議論が先行していた。本研究は、事業所がAI人材を募集するという「足跡」からAI利用を捉え、AIを使いやすい業務構成だった事業所で、求人、必要技能、産業・職業全体の雇用と賃金がどう変化したかを検証した。
方法と対象
Burning Glass Technologiesが収集した米国のオンライン求人票を用いた。主な期間は2010年から2018年10月までで、約4万の企業サイトと求人サイトを収集元とし、同社の重複除去後にはオンライン求人のほぼ全体を覆う。2007年データも事前トレンドの確認に使った。AIサービスを供給する側ではなく利用する側を調べるため、情報産業と専門・ビジネスサービス(NAICS 51・54)は主分析から除いた。
事業所の2010〜2012年の職業構成に、次の3種類のAI曝露指標を適用した。
- Felten・Raj・SeamansによるAI能力と職業能力の対応指標
- Brynjolfsson・Mitchell・Rockによる機械学習適合度(SML)
- WebbによるAI特許と職務記述の対応指標
事業所のAI求人、非AI求人、求人に記載された技能の追加・削除を2016〜2018年と比較した。約95万〜116万事業所を使う仕様が中心で、企業規模、地域、産業、企業固定効果などを順次加えた。さらにCounty Business Patternsの産業雇用と、米国労働統計局OESの職業別雇用・賃金を結合し、集計レベルの変化も調べた。
無作為なAI導入を利用した研究ではない。基準時点の職務構成に基づくAI曝露と、その後の変化の関連を推定する観察研究である。
結果
AI求人は2015年以降に急増した
Felten指標では、AI曝露が1標準偏差高い事業所は2010〜2018年のAI求人増加率が15.96ポイント高かった(標準誤差1.73)。地域・企業規模・3桁産業を調整すると9.19(1.21)、同一企業内の事業所を比べる企業固定効果モデルでは16.53(1.89)だった。
Webb指標でも概ね正の関連が出たが、職業構成を細かく調整すると弱まった。SML指標は仕様により符号も変わり、安定しなかった。3指標が同じ結論を示したわけではない。
非AI求人は事業所レベルで減った
Felten指標によるAI曝露が1標準偏差高いと、非AI求人の増加率は単純仕様で13.80ポイント低かった(標準誤差4.22)。地域・企業規模・産業を調整すると11.90ポイント低く(4.08)、企業固定効果を入れると4.81ポイント低かった(1.44)。2018年にも求人を出していた事業所だけに限ると、産業調整モデルで8.38ポイント(3.46)、企業固定効果モデルで3.56ポイント(1.86)の低下だった。
時期を分けると、AI活動がまだ小さかった2010〜2014年には意味のある関係がなく、急増期の2014〜2018年には約12%の非AI求人減少が見られた。著者らが求人を累積して作った雇用代理指標では、AI曝露1標準偏差につき非AI雇用が7.24%少ない推定だったが、標準誤差は4.66で精度が低い。
これらは求人件数の相対変化であり、実際の採用者数や解雇数を直接測ったものではない。また、AI曝露の高い事業所から低い事業所への仕事の移動を含むため、経済全体の雇用減少を意味しない。
技能は追加と削除の両方向に入れ替わった
AI曝露の高い事業所では、従来の求人に書かれていた技能の削除と、新しい技能の追加がともに多かった。変化は工学、分析、マーケティング、金融、情報技術などに集中した。これはAIが一部の業務を代替すると同時に、残る仕事の内容を変えたことと整合的だが、技能変更がAIによって生じた因果経路を直接観察したわけではない。
産業・職業全体では一貫した効果を検出できなかった
2010〜2016年の産業・地域別雇用では、Felten指標が1標準偏差高い場合の雇用成長差は年−0.05ポイント(標準誤差0.08)だった。2010〜2018年の職業別雇用では+0.51(0.35)で、いずれも統計的に明確でない。
職業別賃金成長はFelten指標では年−0.17ポイント(0.06)だった一方、Webb指標では−0.02(0.04)、SMLでは+0.04(0.05)であり、指標をまたいで再現しなかった。著者らは、AIが事業所の業務と求人をすでに変えていたとしても、当時の普及規模では産業・職業全体の雇用・賃金効果は検出できないほど小さいと結論づけた。
日本に当てはめるときの注意
最大の障害は、2018年までの米国オンライン求人を使った観察研究であり、生成AI普及後の日本の雇用効果を示していないことである。
- 求人票は募集意欲を測るが、実際の採用、解雇、雇用者数、生産性を直接測らない
- オンライン掲載率が低い職種や小規模事業所を過小に捉える可能性がある
- AI曝露は2010〜2012年の職業構成から作る代理変数で、実際のAI投資額や利用強度ではない
- Felten・Webbでは結果が比較的安定したが、SMLでは安定せず、曝露指標の選択に依存する
- AI供給産業を除外しており、新製品・新サービスによる雇用創出やAI企業の成長を十分に捉えない
- 企業・産業固定効果を入れても、AI導入と同時に起きた経営改革や需要変化による交絡は残る
- 米国より長期雇用と企業内配置転換が多い日本では、求人減少が直ちに雇用減少として現れない可能性がある
- 研究はAccenture、IBM、Schmidt Futures、Smith Richardson Foundation、Google、NSF、Sloan Foundationなどの支援を受けた。資金提供元による分析関与や個別の利益相反は報告されていない
