研究の背景
2017年論文の続編にあたる。2023〜2024年に行われた著名なAI研究者・AI企業CEOへのインタビューでは、AGI実現時期の予測は平均して2030年頃だったが、現在ではさらに前倒しになり、3年以内・2025年以内といった予測すらなされている。それにもかかわらず、大量失業に対応するセーフティネットの構築も、爆発的な潜在供給量の増大に対応する需要側政策の準備も整っていない。
方法と対象
理論的考察および政策提言。まず用語を経済学の観点から定義し直す。
- AGI:人間がコンピュータ上で可能な作業のほとんどをこなすことのできるAI(ホワイトカラーを代替)
- 汎用ロボット:壁のペンキ塗りや水やりなど物理的作業まで人間並みにこなす機械(ブルーカラーを代替)
そのうえで、コブ・ダグラス型生産関数 Y = AK^α L^(1-α) において労働分配率がゼロに近づくと Y = AK になる、というモデル変形を用いる。
結果
なぜ従来コブ・ダグラス型が現実妥当だったか
人間が汎用的な生物だから。一つの機械が導入されて一つのタスクや職業が消滅しても、人間は汎用性ゆえに他のタスクを担える。こうして人間は機械との追いかけっこで常に逃げきってきた。AGIはこの前提を崩す。
AGIと汎用ロボットの普及速度の差
- 汎用ロボットは生産に時間がかかる。全世界に約10億人いるブルーカラーを置き換えるには、年5000万台生産しても20年ほどかかる
- AGIはソフトウェアなので追加生産コストがほぼゼロ。生み出された直後から全世界で利用可能
- したがって差し迫った問題はホワイトカラーの危機。ホワイトカラー→ブルーカラーへの「労働大移動」が必要になる
- ブルーカラーの賃金と地位を引き上げる政策、大学進学率を低下させる政策の重要性が増す
人間に残る仕事
- 現在のAIが依拠できるのはデータ化された「顕在的な感性」のみで、人間の「潜在的な感性」にはアクセスできない。芸術や商品開発(例:「孫の手」の発明)にこの優位性が残る
- ホワイトカラー内での移動先は「ディレクションワーク」(AIに指示する仕事)と「ゴーストワーク」(AIが機能するよう黒子として働く仕事)に大別される
- 全脳エミュレーションの実現は22世紀との予測が有力
経済成長
- 純粋機械化経済(Y=AK)でソローモデルを修正すると、経済成長率は Ẏ/Y = sA(0)e^(gt) - δ + g となり、成長率が指数関数的に上昇する
- ただし純粋機械化経済への移行は2050年〜2060年といったかなり後
- それより前に起きるのが科学研究の自動化。AlphaFoldやOpenAIのo1/o3シリーズを例に、「AIサイエンティスト」の出現は間近とする。技術進歩率自体が指数関数的に上昇すれば、コブ・ダグラス型のままでも爆発的成長が可能
政策提言
- 敵対的な権威主義国家が先に純粋機械化経済やAIサイエンティストに到達すれば、戦争は「蟻と象の戦い」になる。国家の存亡に関わる問題
- 国家プロジェクトとしてAGI・AIサイエンティストの研究開発を行い、AI関連に国家予算の1割(10兆円)程度を費やすべき。財源は全額国債で構わない
- 当面は年1600億円ほどのAI関連予算を米国並みの1兆円へ増額でもよい
- 使途:トップレベルのAI研究者の招聘、ハイパースケールデータセンターの増設、本郷等へのAI関連企業エコシステム整備
- BIは生活保障のためだけでなく、潜在供給量の増大に需要が追いつかない問題への対策としても必要
日本に当てはめるときの注意
「AI関連予算を現在の年1600億円から1兆円へ」といった数値は執筆時点のもので、更新確認が必要。
そのほか:
- 財源を全額国債とする点、大学進学率を下げる政策提言などは著者独自の立場であり、経済学界の合意ではない
- 「日本は解雇規制が厳しいのでAGI出現直後の大量解雇は起きない」という前提も、雇用制度改革の議論次第で変わり得る
- 「ブルーカラーは深刻な人手不足」という現状認識は執筆時点のもの。介護・建設分野の需給は政策と外国人労働者受け入れで変動する
